〜美ヶ原高原「思い出の丘」から考える、自然資本とSDGs目標15〜
2006年8月10日、美ヶ原高原「思い出の丘」で撮影された一枚の写真。
そこには、夏空の下、鮮やかなピンク色に咲き誇るヤナギランの群生が広がっていました。
その美しさは、訪れた人々の心に深く刻まれ、まさに「思い出の丘」にふさわしい風景でした。
ところが、あれから19年。
現在、この丘にヤナギランの姿を見ることはほとんどできなくなってしまいました。
原因の一つは、クマ笹の繁茂による生態系の変化です。
かつて可憐な花を咲かせていたヤナギランの群生地は、今では背の高いクマ笹に覆われ、花々はその存在を奪われています。

なぜ、こうした変化が起きるのか?
自然の風景は決して永遠ではありません。
地球温暖化や気象変動、野生動物の生息域の変化、人間活動による土地の利用転換などが、植生のバランスに影響を与えます。
また、人の手が入らなくなった草原や高原は、維持管理が行われないことでクマ笹や他の強い植物が優勢となり、かつての多様な草花は淘汰されていきます。
これは、自然資本の劣化とも言えます。
SDGs・TNFDの視点で考える「ヤナギランが消えた丘」
この変化は、**SDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」**に直結する問題です。
生物多様性の損失は、自然環境だけでなく、観光資源の喪失や地域の魅力の低下にもつながります。
さらに近年、世界的に注目されているのが**TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)**の考え方です。
これは、企業が自然との関係性やリスク、機会を「財務的観点」から開示していく枠組みで、今後の観光業や地方事業者にとっても重要なテーマです。
▼具体的な関連視点:
- ヤナギラン群生の消失は、観光魅力の低下=将来的な収益機会の損失
- 維持管理費用(例:クマ笹の除去、植生回復作業)=事業コストとしての自然リスク
- 環境保全への取り組み=ブランド価値や信頼の向上、自然資本の再構築による中長期的な利益
私たちにできること
かつてのようにヤナギランの群生を取り戻すには、「見る・感じる・守る」のサイクルが必要です。
- 消失した風景を記録・発信する(写真や体験談)
- 生態系の変化を理解する(勉強会・解説ツアー)
- 地域と連携して、草原環境の維持管理を検討する
- 自然資本への配慮を経営に組み込む(観光施設・地元企業)
一輪の花の消失は、小さなことに見えるかもしれません。
けれどそれは、地域の自然資源にとっては重要なサインです。
未来の旅人にも、この景色を
かつての「思い出の丘」のような風景を、未来の旅人にも見てもらいたい。
それは、単なる懐かしさではなく、私たちが自然とどう向き合うかという意思表示です。
美しい自然は偶然では守れません。
「何もしなければ、失われていく」。
その事実に気づいた今こそ、私たちは新たな一歩を踏み出すべき時なのです。