
中小企業に根づく“見えない足かせ”と未来への処方箋
■ はじめに:サステナブル経営は「環境」だけではない
近年、SDGsやESGといった言葉の浸透とともに、「サステナブル経営」が企業経営における重要な柱となってきました。環境対策やエネルギー効率の改善といった取り組みは進みつつあるものの、もう一つ、見過ごされがちな重要な視点があります。それが「組織内の人間関係と心理的安全性」です。
特に中小企業や家族経営の現場では、古い価値観や不文律がいまだに強く残っており、こうした“感情の壁”がやる気のある人材の成長を阻害するケースが少なくありません。
■ 「感情の壁」が成長を妨げる場面
以下のような場面に、心当たりのある方も多いのではないでしょうか。
- 「1年だけ先輩」というだけで、意見や挑戦が受け入れられない
- 「業界歴が長い」ことが権威として振りかざされる
- 「うちはずっとこうしてきた」という理由で新しい方法が拒まれる
- 「身内」の発言だけが重視され、外部からの視点や提案が排除される
また、小さな失敗を極端に恐れ、何度も同じ確認を繰り返すことで、貴重な時間を浪費してしまう。新しいアイデアを出しても、「案の内容」ではなく「提案している人物そのもの」が否定されることも珍しくありません。
「アイツが何言ってんだ」と言われてしまえば、そこに議論の余地はありません。
■ 私自身もその壁の中にいた
実は、私自身がまさにこのような状況にありました。
意見を出せば、その中身を見てもらえず、「誰が言ったか」で判断されてしまう。挑戦しようとすれば、「それはうちには無理だよ」「長年このやり方でやってきたんだから」と、真正面から否定される——そんな環境の中で、私は長らくもがいてきました。
外からの評価、所属する大手旅行会社の地区会での評判、そこに所属する経営者の方々からの自社の経営者に対しての高評価など、「外からの声」によって、少しずつ「外で認めてもらう」ことで自尊心を保つ術を身につけました。しかし、それだけでは本質的な解決にはなりませんでした。
■ 「認め合う文化」のある企業に未来はある
サステナブル経営とは、持続可能なビジネスモデルを追求すること。そこには当然、社員一人ひとりが能力を発揮できる組織風土が不可欠です。環境保全も重要ですが、「人が成長できる文化」こそが、企業の未来を形づくります。
「相手を認める」文化のある企業には、未来があります。
誰が言ったかではなく、「何を言ったか」に耳を傾ける。失敗を責めるのではなく、チャレンジを評価する。そんな企業文化が根づけば、若手もベテランも共に成長し続けられる組織が育ちます。
■ ハラスメントは“組織の気候変動”である
こうした“感情の壁”は、職場のハラスメント問題にも密接に関わっています。否定や嘲笑、無視といった行為は、表面上は小さな言動に見えても、組織にとっては重大な「気候変動」です。
SDGs目標8「働きがいも経済成長も」や、目標5「ジェンダー平等の実現」に照らしても、心理的な安全性を高め、誰もが安心して働ける職場環境を作ることは、サステナブル経営の本質に他なりません。
■ おわりに:小さな見直しから未来が変わる
変化は一夜では起きません。しかし、「この文化のままでは、誰も挑戦できない」と気づいたときから、少しずつでも改善は始められます。
まずは、立場や年齢、社歴にかかわらず「発言の中身に耳を傾ける」こと。感情ではなく、意見で話す文化を育てること。その第一歩が、組織の未来を左右します。
企業にとって最大の資産は“人”です。持続可能な社会のためには、組織そのものが持続可能である必要があります。