
🌿|観光地の未来は「にぎわい」だけではない
今、観光地に求められているのは、単なる利便性や集客力だけではありません。むしろ、「未来に何を残すべきか」を問い直す視点が不可欠になっています。その好例のひとつが、長野県・美ヶ原高原です。
🔍|かつて検討された“車道計画”
標高2000メートルに広がるこの高原は、かつて車道によって美ヶ原台上を結ぶ開発案が検討されていたことがあります。よりアクセスしやすくなれば観光客が増え、地域経済にプラスになるという見込みがあったからです。
観光業における「交通インフラ整備」は、地域振興の常套手段とされてきました。特にバブル期には、「観光地化=経済発展」という価値観が一般的でした。しかし、それが本当に地域や自然の未来にとって正しい判断だったのか──美ヶ原高原は、その問いに対して「開発しない」という選択をしました。

📷|静かな風景が残る場所──2008年の記録より
2008年7月17日、私は美ヶ原高原を訪れました。そこには、抜けるような青空と静寂が広がっていました。まさに「何もない」ことが魅力になる風景。人工物の介在が少ないこの高原には、時代の喧騒から切り離されたような安らぎがありました。
そのときすでに観光の中心地からは外れつつありましたが、逆にそれが、この地の魅力を際立たせていたのです。喧騒や混雑がないからこそ、自然本来の営みに身を委ねることができる。そんな時間と空間の価値が、確かに存在していました。
🌍|サステナブルツーリズムの象徴として
今日、観光と環境、そして地域社会のバランスをどう取るかが世界的な課題となっています。美ヶ原高原は、観光地としては決して派手ではありません。しかし「自然を残す」「静けさを守る」という判断が、これからの時代における新しい観光地の姿を示しています。
私たちが次世代に伝えるべきなのは、「にぎわいの記憶」だけではありません。「守られた風景」や「選ばれなかった開発」の意義こそ、これからの観光に必要な視点です。

✏️|便利さよりも大切なもの
美ヶ原高原を訪れて感じたのは、「便利さ」では得られない心の静けさでした。
この場所が静かなままであること。それは、選ばなかった勇気の証であり、私たちの未来に向けた贈り物でもあるのです。
観光に関わるすべての人に、この高原の静寂が問いかけています。
「本当に守るべきものは何ですか?」
